武藤江美奈
「about:blank」 
2021.6.4~6.26

-----

 オールオーヴァーの表現は、画面の焦点や中心といったものが消失し、画面全体をイメージが均一に覆う。そしてイメージがキャンバスの外まで、どこまでも続いていく感覚をもたらす。それは、人や生物の生死に関わらず、たとえ自分が死んだとしても、終わることのない世界と、変わらず進んでいく時を表していると感じる。この俯瞰的なイメージは、主に私の制作の軸となっている。

 私が支持体に正方形を選んでいる理由は、焦点が無いため画面全体に視線がいくことと、意図しない「ストーリー」が生まれない、という点がある。無駄なドラマ性を省き、素材のありのままの美しさをストレートに感じることができるサイズが正方形であった。さらに感情を持たせないため、あえて意味を排除し、非具体の画面としている。

 あらかじめ、エスキースやドローイングは行わず、抽象的なイメージは即興的に作り上げる。制作は、まずキャンバスを寝かせ、絵の具を流し込む行為から始まる。真っ白なフィールドを、オイルと絵の具が互いに混ざり合い有機的に拡がっていく。その様はまるで、ウイルスが留めなく拡がって侵食していく様を想起させるが、絵の具とオイルは、色として、質感として、視覚的に美しく存在する。パネルにキャンバスを張るのか、パネルに直接描くのか、あらかじめメディウムを塗るのか、画面のコンディションによって絵の具の行き先は変わる。絵の具の粒子がゆっくりと流れ、細かな道が浮かび上がり、面であったり、線や点としても現れる。それはまるで手付かずの自然のような、あるがままの美しさを感じさせてくれる。

 また、その時の画面の状況により、更に絵の具を流し込むこともあれば、完全に意識的に筆跡を重ねることもある。すると、一気にこちら側に引き寄せられる。しかし、描いている瞬間、行為そのものはやはり無意識に近い。私は、意識と無意識の狭間を行き来しながら重ね描くことで、油絵具ならではの生々しい質感と、およそ名付けることのできないイメージと、混沌とした空間を生み出している。

 今回の展覧会タイトルである「about:blank」とは、ブラウザが何も読み込んでいない時に表示される白紙のページである。何も描かれていない真っ白なキャンバスに対峙した時、私自身も常に真っ白な状態でありたい。私が現在行っている描画方法は、これまでに蓄積した自身の固定観念を取り払い、何者でもなかったころの新しい感覚と、表現する
意味を私にもたらしている。

武藤江美奈

-----

武藤江美奈 「about:blank」
2021年6月4日
(金)~6月26日(土) 11:00~18:00
会場:NODA CONTEMPORARY

NODA CONTEMPORARY

TEL 052-249-3155